エクササイズは健康にいい。だが、やり過ぎると筋肉や関節に痛みを伴うから注意が欠かせない。激しいエクササイズをする人々に愛用されているのが、イブプロフェンとこれによく似たOTC(大衆薬)の鎮痛薬だ。これら人気の高い薬、NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)は炎症を抑制することによって痛みを軽減するが、もしかすると予期せぬイヤな結果を引き起こす。


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最近発表された2つの新しい研究によれば、これらの薬が激しいエクササイズをした時に腎臓に負担をかけるだけでなく、その後、筋肉が回復する能力をも低下させるというのだ。

エクササイズに熱心な人の周囲の人なら誰でも知っていることだが、彼らの大多数は鎮痛薬を常用している。ある競技者は、激しいトレーニングや大会での痛みをやわらげるためのイブプロフェンのことを「ビタミンI」と呼んで、冗談を飛ばしている。他の選手はナプロキセンなど他のNSAIDを使用しながら、激しいトレーニングに耐えている。とりわけマラソンやウルトラマラソンのような高強度の持久力競技の選手には大人気だ。だが、ここ数年、NSAIDは、選手が期待する効果を発揮しないことが発表されている。

ある研究では、痛み止めを服用する人は、服用しない人と同じだけの筋肉の痛みを感じていることが確認された。長距離ランナーがNSAIDを服用すると、腎臓の問題を引き起こす可能性が2〜3の研究で示された。この可能性のために、スタンフォード大学医学部のグラント・リップマン教授が関心を抱いた。
 
NSAIDは、痛みと炎症を拡大するプロスタグランジンという物質の生産を抑制する。プロスタグランジンは血管を拡張し、損傷部位の血液の流れを増やす。だが、これらの効果は、長時間のエクササイズをする人に好ましいことなのかどうかは、不明である。

新研究のひとつが、2017年7月15日にEmergency Medical Journalに発表された(1)。リップマン教授は、数日に及ぶウルトラマラソンのランナーにイブプロフェンの錠剤またはプラシーボを50マイル(80km)のレース中4時間ごとに服用してもらった。その後、彼と仲間は、参加者の血液を採取し、クレアチニンレベルを測定した。クレアチニンレベルは腎臓のろ過機能の指標である。他の点で健康な人のクレアチニンレベルが高いのは、急性の腎臓障害のサインである。

50マイルを完走した直後、ウルトラマラソンのランナーの多く(44%)は、クレアチニンレベルが腎臓障害を示すほど高かった。しかも、イブプロフェンを摂取したランナーのクレアチニンレベルが高かった。彼らの急性腎臓障害を発症するリスクはプラシーボを服用した群に比べ、18%も高くなっていた。加えて、彼らのクレアチニンレベルはより深刻だった。

この研究では、ランナーを翌日または次の週まで追跡しなかった。しかし、リップマン教授は、競技が終わってから、彼らの腎臓機能は正常に戻ったと信じている。この実験は、イブプロフェンが腎臓障害を引き起こす理由を決定するように設計されたものではない。だが、リップマン教授と彼の仲間は、こう推測する。プロスタグランジンの生産を阻害することで薬は血管の拡張を妨げている。腎臓への血液の流れがほんの少し抑えられるだけで、腎臓が血液をろ過する機能が低下するのかもしれない、と。

2つ目の研究は、スタンフォード大学び生物学科の研究者によって2017年5月にPNAS(米国科学アカデミー紀要)に発表された(2)。この論文からも、先の研究と同様の心配が浮かんでくる。すなわち、NSAIDがプロスタグランジンの生産を低下させることで、筋肉の深いところで体が運動に対応する方法が変化していたのだ。

この研究で研究者は、私たちが激しい運動をした時に生じるのと類似したわずかなダメージを筋肉に受けたマウスの組織を観察した。組織はあるタイプのプロスタグランジンでいっぱいになった。これには大きな意味がある。というのは、プロスタグランジンが筋肉内の幹細胞を刺激し、増殖を開始することだ。新しい筋肉細胞を作り、ダメージを受けた細胞を修復する。その後のテストで、修復された筋肉組織は、強度が以前のものより増していた。

この微視的なプロセスは、私たちが高強度のエクササイズをし、筋肉に負荷をかけ、筋肉を再構築する時に起こっていることだ。だが、NSAIDを筋肉内でプロスタグランジンの生産を抑えるために使用すると、使用しない時に比べ、少ない幹細胞が活性化し、新しく誕生した細胞が減少した。そして筋肉組織は治癒の後でさえ、薬を使っていない組織ほどの強度と反発力はなかった。ペトリ皿で分離した筋肉細胞とNSAIDを投与された生きたマウスでも、同じ反応が観察された。

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