見捨てられたワーブルグ効果
ワーブルグ博士がホベリ博士と異なったのは、彼がウニの卵子の染色体に興味を持たなかったことである。それよりむしろ、彼は細胞のエネルギーに精力を集中した。とりわけ、卵子がどのようにエネルギーを作り出すのか、という問いである。
そして1923年、ワーブルグ博士の興味は、ウニの細胞からラットのがんに移行した。彼は、ウニが成長するにつれ、ウニの卵子が酸素消費量を急激に増加することを発見したのだ。そこで彼は、ラットのがんが成長する際にも、多くの酸素が必要であると予測した。
がんの原因を発見したオットー・ワーブルグ博士
だが、実際はそうではなかった。がん細胞は大量のブドウ糖を飲み込んだが、酸素を使うことなく、ブドウ糖を分解し、増殖した。この現象は彼には理解しがたいものだった。今では誰でもわかることだが、食べ物をエネルギーに変換するのに、酸素を利用する化学反応は非常に効率のよい方法である。しかも、がん細胞は酸素を十分に入手できるのだ。
しかし、ワーブルグ博士が他のがん細胞を調べたところ、ヒトのがん細胞を含め、がん細胞はブドウ糖が大好きだという、常に同じ現象を発見した。これを「ワーブルグ効果」と呼んでいる。この効果は80%のがんに見られるから、大多数のがんに共通する。