抗アルツ薬を開発することの難しさ
病気の症状を改善するにも治すにも、研究が必要だ。まず、病気が発生するしくみを分子レベルで明らかにする基礎研究をおこない、つぎに、解明されたしくみを利用して薬をデザインし、つくる。このやりかたは正攻法であり、正面攻撃である。

アルツの研究でも、まずは正面攻撃が採用された。過去20年以上にわたり、科学者は、こんな問いを設定して研究を進めてきた。

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なぜ、脳の神経細胞が死ぬのか? どうすれば脳の神経細胞を死から守ることができるのか? どうすれば神経細胞を元気にすることができるのか? なぜ、記憶と学習能力が失われるのか?

アルツの発症するしくみを明らかにし、そのしくみを利用すれば、アルツ患者の脳をもとの健康な脳にもどす手段、病気を治す薬や、病気を防ぐワクチンを開発することも可能なはずである。

この目的のために多くの科学者が努力を重ね、たくさんの成果が膨大な数の論文となって発表されてきたし、今も発表され続けている。しかし今のところアルツを治す薬はまだ発見も、発明もされていない。それどころか、アルツの原因が何かという根本的なことさえ不明なのである。アルツの脳を特徴づける「老人斑」と「神経原繊維変化」にしても、アルツの原因なのか、それとも結果なのかさえわからない(1,2)。

アルツの研究では、正面攻撃をかけようにも、まだ病気が発生するしくみが明らかでないため、目標さえ定まらない。かなり辛い状況にあるのは、子どもでもわかる。

ところで、がんの研究ではがんが遺伝子の病気であるということがわかっていても、正面攻撃からはがんによる死者を減らす、有効な抗がん薬は開発されなかったという歴史がある。まだ目標すら定まっていないアルツの研究において、正面攻撃でアルツに対する実効性のある成果が短期間にえられるとは到底思えない。

では、私たちはアルツに対してまったく打つ手がないのか?
否、決してそうではない。

参考文献&脚注
(1) 老人斑:β-アミロイドがつながったプラークによってできる。
(2) 神経原繊維変化:タウというタンパク質のもつれによってできる。