脳の過剰な興奮を抑える
仕事や家事に追われる日々がつづくと、心の緊張が高まる。落ち着きがなくなり、妙にソワソワする。それが高じてイライラがつのる。心を静めることこそが人生で成功するカギと知りつつも、平静な心を持ちつづけるのはむずかしい。心の安定しなければ、血圧が上がり、脳卒中や心臓マヒの原因にもなりかねない。  

「精神の安定」「血圧を下げる」などと謳われ人気が高いのが、「ギャバ」だ。ギャバ、まるで悲鳴のような名前だが、じつは、これ、「γ-アミノ酪酸」(ガンマアミノラクサンと読む)という物質の略称で、れっきとしたアミノ酸の一種なのだ。

今から約50年前、ギャバは脳を抑制する伝達物質(神経伝達物質)として発見された。そしてギャバ、グルタミン酸、グルタミンは互いに密接に関係しているから、これらを「グルタミン三兄弟」と呼ぶことにする。

 

なぜ、グルタミン3兄弟と呼ぶのか? グルタミン酸は脳を興奮させる伝達物質であり、グルタミン酸にある酵素がはたらくとギャバに変身し、別の酵素がはたらくとグルタミンができるからだ。

どの酵素がはたらくにもビタミンB6が欠かせない。もしB6が不十分だと、ギャバが不足し、脳が興奮しすぎることになる。こうしてイライラやケイレンが発生する。

脳を抑制するギャバは、車にたとえるとブレーキに相当する。一方、脳を興奮させるグルタミン酸は、アクセルだ。脳が快適に機能するには、アクセルとブレーキのバランスが大切なのだ。

ギャバは、ギャバ受容体にドッキングすることで、神経細胞の興奮を抑えるブレーキとしてはたらく。多動、そう、不安、睡眠障害、ケイレン、慢性痛などの症状を緩和する薬の大部分は、脳内に存在するギャバのはたらきを応援することによって、脳を鎮静化している。 

ギャバがいかに大事な伝達物質であるかがわかる。ギャバは、ジアゼパム(商品名バリウム)やクロロジアゼポキド(商品名リブリウム)などベンゾジアゼピン系の抗不安薬(トランキライザー)や睡眠薬のバルビツール酸誘導体と同じように、脳にブレーキをかけて、脳の過度の興奮を抑える。これらの薬は習慣性や依存性が強い。だが、ギャバはこれらの薬とは大きく異なり、深刻な副作用はない。 

ギャバは脳内で代謝され、γ-ヒドロキシ酪酸(GHB)という自然の睡眠薬ができる。ストレスが発生すると、これを抑えるために、脳内でギャバがたくさん作られる。だが、もし、大量のアルコールを摂取したり、抗不安薬を数カ月(個人差がある)以上連用すると、脳内のギャバが枯渇してしまう。

不安を和らげる
脳のブレーキであるギャバのはたらきが低下すると、脳の興奮がおさまらず、不安がつきまとう。抗不安薬は、ギャバ受容体がギャバをキャッチするのを助けることによって効果を発揮している。

不安が消えた!
40歳のアメリカ人、キャロルは深刻な不安に悩んでいた。彼女は、抗不安薬のジアゼパムとロラゼパムを服用していたが、これらによる副作用が辛かったことから、分子整合医学の大家でニューヨークにある全身健康センター所長エリック・ブレーバーマン博士のクリニックを訪れた。

「分子整合医学」とは、薬ではなく、その人に不足しているビタミン、ミネラル、脂肪酸などの栄養素を補うことで病気を治す新しい医学である。

同博士は、彼女に1回 200ミリグラムのギャバを1日4回処方した。数日たって、彼女はジアゼパムの服用を中止し、ロラゼパムの服用量を大幅に減らすことに成功した。ブレーバーマン博士は、こう証言する。「クリニックを訪問した不安に悩む患者の多くが、1日に2~4グラムのギャバを摂取し、不安を緩和できた」

抗不安薬を服用するのと同じように、ギャバを摂取したところ、キャロルはリラックスできてよく眠れたという。

さらに、1日に2~4グラムのギャバを摂取した糖尿病患者の半数で、血糖値が大幅に低下した。これは、ギャバがインスリンの効果を高めるからと理解されている。糖尿病の治療にギャバが利用できるものの、血糖値が下がりすぎる低血糖症の人は使用すべきでない。

発作を防ぐ
脳の発作を起こしやすい人は、血中のギャバが不足していると考えられている。体外からギャバを摂取しても脳内にそれほど入らないという主張がある一方、100 ミリグラムのギャバをネズミに投与したところ、発作は止まったとの報告もある。

血液—脳関門は健常者では堅固だが、健常者でなくなれば隙間がたくさんあり、そこから通常なら入ることのないさまざまな物質が脳内に入るのかもしれない。

抗ケイレン薬のデパケンは、脳脊髄液中におけるギャバのレベルを高める。グルタミン酸やアスパラギン酸は脳を興奮させるアミノ酸で、血中濃度が高くなると、ケイレン発作を誘発することがある。これら興奮性アミノ酸と競合するメチルアスパラギン酸にも、抗ケイレン作用がある。

抗ケイレン性アミノ酸として知られるタウリンは、てんかんの抑制にも有効だ。というのは、タウリンがグルタミン酸をギャバに変換する方向に化学反応を進めるからである。これまでにてんかん発作を抑えるための薬の開発をめざして、ギャバをマネた多くの物質がつくられてきた。たとえば、クロラゼパム、オキサゼパム、アルプラゾラムなどのベンゾジアゼピン誘導体はみなそうである。

ギャバの大量摂取
文献に記載されているギャバの最大摂取量は3グラムである。だが、栄養とメンタルヘルスの大家、故カール・ファイファー博士は、みずからさまざまなアミノ酸を大量に摂取して副作用の発生を調べた。

ファイファー博士がほとんどのアミノ酸を20~30グラム摂取しても問題は発生しなかった。これに自信を持った同博士は、10グラムのギャバを空腹時に一度に摂取した。やはり、これはきつかった。10分後に、呼吸が速まり、ぜいぜいしてきた。顔と手にピリピリする感覚が数分間つづいた。不安と吐き気が2時間つづいた。ギャバは、1~3グラムの摂取で、顔と手にピリピリする感覚が発生し、呼吸が浅くなる。ただし、これらの副作用は数分で消える。