わが国だけでなく、アメリカやヨーロッパで高額な抗がん剤が発売されている。わが国で販売されているオブジーボという抗がん剤は月300万円もするという。製薬会社はこれを売って大儲け。もちろん、世の中にタダなんてものはない。誰かが支払っている。世の中にタダのものあると思っているのは、自分でカネを払わず、ただ乗りしている人々だけだろう。

日本の医療費は患者負担こそ少ないが、残りの代金を健康保険で支払っている。これを、たとえば、月300万円もする高額な抗がん剤の支払いに適用しては、健康保険制度は潰れる。子どもでもわかることだ。

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高額な抗がん剤だが、どれくらい効くかというと、がん患者の生存期間を数ヶ月間ほど伸ばすだけだ。冗談というしかない。

効かない抗がん剤が高額で販売され、個人だけでなく、社会全体の財政を圧迫している。これは日本だけの問題ではない。アメリカ、ヨーロッパも同じ、または似たような問題を抱えている。そこで、ヨーロッパの研究を紹介しよう。

ヨーロッパで抗がん剤の効き目についての衝撃の事実がBMJ(イギリス医学雑誌)という一流の医学雑誌に発表された(1)。ヨーロッパでは2009~2013年の間に48種類の抗がん剤が承認され、市場に出回った。48種類の抗がん剤は68例の治療に用いられた。

問題なのは、これらの薬が患者の生存期間を伸ばすという証拠もなければ、QOLを改善したという証拠(evidence)もないということだ。効かない高額の抗がん剤が販売され続けている。このショッキングな事実が、キングスカレッジとロンドン・スクール・オブ・エコノミーの研究者によって明らかにされたのである。

研究チームは2009~2013年においてヨーロッパ医学協会(EMA)によって承認された48種類の抗がん剤、68例についてのレポートを分析した。

論文の共著者でロンドンスクール・オブ・エコノミーのフセイン・ナチ教授は、この調査の動機をこう話す。「そもそも、私たちは、すでに市場に出回っている抗がん剤が、患者のQOLを改善する、あるいは、生存期間を伸ばすという証拠が存在するのかどうか、を知りたかったのである」

それで何がわかったか? 68例のうち、患者の生存期間が延長したのは24例(35%)で、その期間は平均2.7か月。QOLが改善したのは68例中7例(10%)。残りの44例では、患者の生存期間の延長も、QOLの改善も見られなかった。その内訳は、患者の生存期間が延長したのは44例中3例(7%)で、QOLの改善は44例中5例(11%)。

要するに、生存期間の伸びは平均2.7か月で、肝心のQOLの改善は10%。ほとんど意味がない。

ナチ教授は、こう続ける。「私たちが発見し驚いたことは、がん患者の生存期間の伸びやQOLを観察する研究はそれほど多くないということ。その代わり、ほとんどの研究は、薬による生存期間の延長を期待させる手がかりとなるX線やラボテストのような間接的なデータ(代用エンドポイント)を追っていること。私たちは、製薬会社に患者の生存期間の伸びを長期にわたって研究すると期待したのだが、不幸なことに、製薬会社は薬が市場に出たら、そんな試験に投資しなかった」

当たり前である。儲からないことに投資する企業などない。

オックスフォード大学のカール・ヘネガン教授は、抗がん剤によって患者の生存期間が伸びなかったことは失望であるといい、抗がん剤を評価するため、さらに厳密な方法を確立すべきであると主張する。同教授は、こう結んだ。「臨床において患者に利益がない半分の薬が認可されたのが理解できない」

これまで抗がん剤の多くは、患者の生存期間が伸びる、あるいはQOLが改善することを信頼できる方法で予測できなくても承認されてきた。このため、今、ヨーロッパでは薬の承認制度そのものに疑いの目が向けらている。

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