病気になりやすい考え方、病気になりにくい考え方
私は、生化学者として長い間、遺伝子やウイルスの研究にたずさわってきた。そのなかで、がんや感染症といった病気と取り組んできたが、いつも不思議に思っていたことがあった。それは、どうして病気になる人とならない人が出てくるのか、ということである。それから、同じ病気になっても、早く治る人と、遅く治る人がいるのはなぜかということである。
病気は、遺伝子、食べ物、喫煙、飲酒、睡眠、運動などの生活習慣、職業などの要因が複雑にからみあった結果としてあらわれる。食べ物、喫煙、飲酒、睡眠、運動などの生活習慣や職業の選択は、自分の意志である程度までコントロールできる。遺伝子については、根本的な誤解が流布している。
それは、遺伝子が人生の主役であるという主張である。遺伝子は生得のものであるから、変えることができないのは確かだが、人が遺伝子の命令にしたがって生きるのではない。たとえていえば、遺伝子は、図書館の書棚に並んだ本のようなものである。どの本を棚から取り出して読むかは、本人が自分の意志で決めることである。
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医師や看護師のいうことをきちんと守る従順な患者よりも、規則を守らなくても積極的な患者の治りが早い、とは病院関係者の実感であろう。もちろん、これは、規則を守らない患者の治りが規則を守る患者に比べて早いというのではなく、積極的な患者は消極的な患者より治りが早いという主張である。
ここで、動物やヒトが病気やケガから自然にもとの状態にもどる力のことを「内なる治癒力」と呼ぶことにする。体が病気から回復するのに 10 の力が必要とすると、もともと体に備わった内なる治癒力は9、医療と薬は1であろう。この比率は正確ではないが、内なる治癒力が主役で、医療と薬は脇役といいたいのである。そして、内なる治癒力は積極的な態度に代表されるプラス感情によって高まるのである。
だが、現状はどうかというと、私たちは病気を撃退しようと科学・技術の粋を集めた現代医学に頼りすぎて大量の薬を飲み、もともと体に備わっている「内なる治癒力」をかえりみないことが多い。私たちは、病気をやっつける際の主役と脇役を転倒させがちなのである。
薬は病気の原因を取り除くのではなく、症状を一時的に抑えるだけのマイナーな治療法である。だから薬の服用によって症状が消えても、再発することが多い。しかも、このとき病気は薬を服用する以前よりも悪化するケースが多い。