世界中でビタミンD旋風が起きている。
古くから「骨を強くする」「カルシウムの吸収を高める」ことで知られているビタミンであり、別段、目新しいものではないのに「なぜ?」と思ってしまう。だが、ビタミンDにがんを予防したり、抗菌効果があることが判明したのだ。まず、ビタミンDが発見されたいきさつから述べてみよう。脚や背骨が曲がり、直立すると脚がO字型に開く病気がある。くる病だ。17世紀のイギリスの子どもたちに蔓延したので、イギリス病とも揶揄された。

1824年ころ、ドイツの研究者が、肝油にくる病の予防と治療効果があることを発見したのだが、この治療法は広まらなかった。理由の一つは、当時の医師たちが、食物には健康に欠かせない微量栄養素が含まれていることを知らなかったことにある。

やがて、食べ物で実験的にくる病を発生させたラットに、日光浴させても、肝油を食べさせても、病気が治癒することが発見された。それから100年近く経過した1922年、皮膚と肝油に含まれる重要な因子が遂に捕らえられた。この因子はビタミンDと名づけられた。

以来、ビタミンDは骨を強くする栄養素とばかり思われてきたが、最近になって、ビタミンDにはがんや感染症を防ぐという効果もあることが新たに判明し、大ニュースとなった。

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ビタミンDの新しく発見された効果が最大になるのは、一般的な人々の血液中に含まれる量よりはるかに高いレベルのときであることも判明した。疫学研究からは、ビタミンDがやや不足するだけでがんなどの病気になりやすいことが示された。つまり、ショッキングなことに、大多数の人々にとってビタミンDは不足ぎみなのだ。

乳がんの半数を予防できる
ビタミンDを適度に摂っている人は、大腸がん、乳がん、皮膚がん、前立腺がんにかかりにくいことが経験的に知られている。その真偽を科学的に確かめるために、いくつもの治験が行われてきた。その1つは、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)医学部のセドリック・ガーランド教授らのグループが主導する治験である。2007年、同グループは、ビタミンDの摂取により、乳がんの半数を予防できる可能性があることを「ステロイドの生化学と分子生物学」誌に発表した(1)。

まず、1760人の女性をビタミンDの血中濃度によっていちばん低い群(血液1ミリリットル中13ナノグラム以下、13ng/mlと表記、1ナノグラムは10億分の1グラム)からいちばん高い群(およそ52ng/ml)まで、5グループに分けた。そして、グループごとの乳がんの罹患率をくらべたところ、いちばん低いグループがいちばん高かったばかりか、ビタミンDの血中濃度が上がるにつれ、乳がんの罹患率は低下していった。すなわち、ビタミンDに用量ー反応の関係が確認されたのである。これにより、ビタミンDの血中濃度と乳がんの罹患率は、因果関係、すなわち、 両者は原因と結果の関係にあることが裏付けられた。

また、同大学のエドワード・ゴーハム教授らのグループは、ビタミンDの摂取によって大腸がんの3分の2までを予防できるという可能性について、2007年の「米予防医学」誌に発表した(2)。

この調査でも、乳がんのケースと同じように、1448人をビタミンDの血中濃度によって5グループに分けの大腸がんの罹患率を25年間にわたって追跡した。結果は、血液1ミリリットル中34ngの人は いちばん低いグループにくらべて罹患率が半分になり、血中濃度46ngの人は罹患率が3分の1に減少していた。ビタミンDの血中濃度が上がるに連れ、大腸がんの罹患率が低下したことから、ここでも用量ー反応の関係が確認された

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