人類を襲うアルツハイマー病
アルツハイマー病(アルツと略記する)予備軍の中高年のみなさま、そしてアルツの介護予備軍のみなさま、こんにちは。どちらの予備軍にも筆者である私自身が含まれる。

私たちが人生で失う多くのもののうち、いちばん失いたくないものが記憶である。このことを実感しはじめるのは、50歳をすぎるころからだ。メガネを置いた場所を忘れたり、台所に行ったが何を取りにいったのかを忘れてウロウロしたり。道ばたや会議などで顔を見ても名前がなかなか思い出せないこともある。これくらいは、まだ健忘症の範囲といえよう。

さらに記憶力が低下すると、日常生活に不便をきたしはじめる。そうするうちにアルツになると、家のまわりを徘徊したり、車で高速道路を逆走したり、人身事故や事件につながることも少なくない。

もちろん介護が必要になるが、アルツ患者は介護する家族に暴力を振るうこともある。アルツがさらに悪化すれば、自分がいったい誰なのかという根本的なことさえわからなくなってしまう。

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記憶力が極端に低下する認知症の代表がアルツで、長い歳月をかけてゆっくり進行する脳の病気である。アルツになると、脳の神経細胞の約40パーセントが死ぬ。これによって脳に穴があき、脳全体が縮む。脳にあいたこの穴が記憶を喪失させ、私たちから人間性を奪う。

加齢によってアルツになるリスクは高まるが、高齢になったら必ず発症するものではない。死の瞬間まで、健康な脳を保つことできる。このことと、それを実践するための科学的根拠のある方法をみなさまにお知らせしよう。

記憶を失わせるアルツ
なぜ記憶がそれほど大事なのかというと、記憶が自分を形成しているからだ。私たちが自分とは誰なのかを知るのは、記憶があるからだ。記憶がなくなれば、自分もなくなるから、私たちは恐れを抱くのだろう。

では、記憶とは何か? 私たちは、経験や学習を通して獲得した情報を脳に入力し、保存し、必要に応じて取り出して使っている。必要に応じて脳から取り出すことのできる情報、それが記憶だ。

では、脳とはどんなものか? 人体のてっぺんにある頭、その中につまっている豆腐のような臓器が脳である。脳には1000億個もの神経細胞がつまっている。脳のそれぞれの部分は神経細胞が長く伸びた軸索というケーブルでつながっていて、回路(神経回路、神経ネットワーク)を形成し、互いに情報を交換している。

軸索を木にたとえると、その先にはたくさんの枝が生えて伸びている。この枝のことを樹状突起という。神経細胞から伸びた樹状突起は、別の神経細胞の樹状突起とつながっている。このつなぎめのことをシナプスという。脳内には数百兆ものシナプスが存在する。

子どものころや学生時代の思い出、結婚生活、仕事、出会いと別れ。こういった人生における出来事は、私たちの記憶として脳内のシナプスに蓄えられている。

ところがアルツ患者の脳では、思考や判断をつかさどる前頭葉や、記憶をつかさどる海馬で神経細胞が大量に死滅している。このためアルツが進むと、記憶も学習もままならなくなり、思考や判断もうまくできなくなる。

爆発的に増えるアルツ患者
毎年、先進諸国ではアルツの患者が急増している。世界のアルツ患者の総数は2006年に2700万人だったが、2050年には1億1000万人に達すると予測されている。

最も信頼できるデータのあるアメリカの状況はどうか。米国アルツハイマー病協会は、同国内におけるアルツの患者数は、1975年の50万人、2005年の450万人、2007年の510万人と爆発的に増えていること、2050年には1100~1600万人になるとの見込みを発表した。

そしてアメリカにおいてアルツにかかる年間の治療費は2010年に8兆円に達した。患者数も治療費も莫大だ。この状況を打開しようと、アメリカ政府は2010年、アルツの予防と治療のための研究に年間約650億円もの資金を投入している。

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