インスリンとIGF-1は細胞を増殖させるチャンピオン
ワーブルグの特別な食事
ワーブルグは、がんはエネルギー源を断てば治療できると考えていた。そのエネルギー源はブドウ糖であり、食事でコントロールできると信じていた。天才中の天才である。
大多数のがんを予防できると信じていた彼は、死期が近づくと、食事に執着するようになった。彼は、食べ物に添加された化学物質と農業で使われる化学物質が呼吸を妨げ、がんを引き起こす、と考えていた。
彼の行動は徹底していた。彼は、パンは自宅で焼いたもの以外は口にしなかった。彼は特別な群れの牛から絞ったミルクだけを飲み、自分の研究室の遠心分離機を使い、ミルクからクリームとバターを製造した。
ワーブルグの個人的な食事は、がん予防の一般的な手段とはなり得ない。しかしワーブルグの復活は、研究者に食事が肥満と糖尿病に関係していることに関する仮説を作らせた。大きな仮説は、次の2点である。
・砂糖の多い食事がインスリンレベルを恒常的に高くすること
・砂糖の多い食事が細胞にワーブルグ効果を発生させ、細胞をがん化させる可能性があること
インスリン仮説は、ワイル・コーネル医科大学メイヤーがんセンターのルイス・キャントリーによるインスリンの研究にさかのぼる。膵臓から放出されるホルモンのインスリンは、細胞にブドウ糖を取り込ませる。1980年代キャントリーは、インスリンが細胞内部で起こることに影響を及ぼすことを発見した。
Dr. Lewis Cantley
キャントリーは、インスリンとそれとよく似たIGF-1(インスリン様成長因子-1)をがんに関係する代謝タンパク質のチャンピオンと呼んだ。彼は「あるケースでは、インスリンそれ自体ががんを発生させる」と語る。
ワーブルグ効果には、こんな意味がある。インスリンやIGF-1のシグナル経路が間違った道に進むことによって、細胞は、ブドウ糖を常に取り込んで増殖するようにインスリンが命令しているかのごとく振る舞うというものだ。
キャントリーは自ら砂糖の摂取をできるだけ避ける生活を送り、大腸がんなどのがんに共通する変異を持ったマウスを使って食事の効果を研究している。彼は、砂糖の多い食事をすると、大腸がん、乳がんなどのリスクがかなり高くなると語る。
がんは予防のしにくい遺伝性のものと、予防できるがんがある。