日本で高齢者がどんどん増えている。100歳の老人はウヨウヨいる。厚労省によると、2015年、全国の100歳以上の高齢者が6万1568人となった。女性はそのうち5万3728人で全体の約87%を占める。

長生きはめでたいか? 私はそうは思わない。長く生きればいいというものではない。寝たきりで長生きしたい人はあまりいない。生物学的寿命の長さではなく、人生の質をできるだけ高めたいものである。

なぜ、ある人は健康で長生きできるのか? 100歳を超えても介護なしに、あるいはわずかの介護を受けるだけで、自分で身の回りのことができるのか? 健やかに老いるカギは何か?

ボートを漕ぐ高齢の女性

このナゾを解くカギが、慶應大学医学部百寿総合研究センター(新井康通専任講師)とイギリスのニューカッスル大学(トーマス・グリニツキー教授)のコラボで発見された。

結論はこうだ。100歳を超えてなお健康に生きるには、体内の炎症レベルを低く抑えること、そしてテロメアの長さを保つことである。

専門家なら直感的に、テロメアの長さが健康長寿を左右すると考えるだろう。テロメアとは、ヒトの染色体の両端にある6個の塩基配列(TTAGGG)を1単位とした約2,000 回のくり返し構造のことである。

乗車のたびにひとつづりの切符の1枚が切られるように、細胞分裂のたびにテロメアが少しずつ短くなる。そしてテロメアがある特定の長さ以下になると細胞分裂が止まり、細胞死を招くことが知られている。

だが、健康長寿のためには、テロメアの長さより体内の炎症レベルを低く抑えることが、より重要なことがこの研究でわかった。これが驚きなのである。健やかに生きるカギはテロメアの長さではなく、慢性炎症を抑えることにある。だから、この論文のタイトルは、「Inflammation, But Not Telomere Length・・・(テロメアの長さでなく、炎症である・・・)」となっているのだ。 

高齢者を襲う病気は糖尿病、骨や関節を攻撃するもので、その特徴は激しい炎症である。 

イギリスのグループを率いたトーマス・グリニツキー教授は、こういう。「百寿者(100歳以上)、超百寿者(105歳以上)は普通の人とは異なる。単純化すると、彼らはゆっくり老化する。彼らは普通の人よりもはるかに長く病気を撃退し続ける」

多くの科学者は、加齢によってテロメアが連続的に短くなると予測していた。だが彼らが発見したのは、百寿者になる可能性の高い人である、百寿者の子どもたちは、80歳代になっても60歳代のテロメアの長さを保っていたことだ。

グリニツキー教授は、こうつけ加えた。「私たちのデータが示すのは、もしあなたがかなりの高齢者になったら、テロメアの長さは健康的に加齢していくための目安にはならないということである」

この研究の基礎となったデータは、次のように集められた。

1,554 名の高齢者(百寿者、百寿者家族、85-99 歳の高齢者)を対象に、長寿に関係があると考えられる、造血能(貧血)、代謝、肝機能、腎機能、細胞老化(テロメア長)を測定した。、分析した。

データを分析したところ、こんなことがわかった。百寿者の子孫の慢性炎症のマーカー値は、低いままであった。このマーカー値は加齢によって百寿者を含め、誰でも上昇する。しかし、この値を低く抑えることに成功した人は、長生きするだけでなく、介護を受けずに生きる期間、すなわち、健康寿命が長く、認知能力を長く良好な状態に維持する可能性が最も高い。

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