脳の十分な働きに欠かせない必須脂肪酸 

人生をよりよく生きるには、知性を高めねばならない。このとき力を発揮するのが、オメガ3やオメガ6として知られる必須脂肪酸だ。たとえば、動物に必須脂肪酸の含量の少ないエサを与えると、知能、とりわけ記憶力が低下することが明らかとなっている。

脳に大切な脂肪は、つぎの五種類とされている。飽和脂肪酸、分子中に一個の炭素-炭素二重結合を持つ一価不飽和脂肪酸、コレステロール、オメガ3やオメガ6といった分子中に複数の炭素-炭素二重結合を持つ多価不飽和脂肪酸である。

最初の三つは体内でつくることができるが、オメガ3とオメガ6は体内でつくることはできないため、食事から摂取しなければならない。このためオメガ3とオメガ6は、必須脂肪酸と呼ばれている。

なぜ、脂肪が脳のはたらきに大切なのだろう。理由は二つある。一つめは、脂肪が神経細胞やその一部が長く伸びた軸索というケーブルを包む主成分となっているからだ。

脳内には一〇〇〇億個もの神経細胞が詰まっている。そして、脳のある箇所で発生した情報は電気シグナルとなって、軸索というケーブルを通して脳の別の箇所に送られる。このケーブルを覆うのが、その八〇パーセントが脂肪であるミエリン鞘である。

もし脂肪が不足すれば、ミエリン鞘が薄くなり、電気シグナルが漏電する。そうなると情報の伝わるスピードが落ち、最悪のケースでは、情報が消えてしまう。要するに、脂肪が不足すれば、頭の回転が鈍くなるのだ。

理由の二つめはもう少し複雑だ。脳内の情報は、神経細胞の軸索を電気シグナルの形で伝わるが、そのつなぎめであるシナプスのところに来ると、伝達物質に姿を変えねばならない。シナプスにはすき間があるためだ。情報が電気シグナルのままでは、シナプスのすき間に邪魔されて、標的の神経細胞に到達できないのだ。

そこで、シナプスまでやってきた電気シグナルは、伝達物質というボールに姿を変えてシナプスを渡り、標的の神経細胞の表面についている受容体というキャッチャーミットにおさまる。こうして情報が神経細胞から神経細胞に伝わる。標的の神経細胞に伝わった情報は、再び、電気シグナルに姿を変えて軸索を伝わっていく。

この受容体を支える土台になっているのが、神経細胞の膜である。隣接する神経細胞から放たれた伝達物質というボールをうまく捕らえるには、キャッチャーミットを支える膜がやわらかいことが前提条件となる。

頭をやわらかくするオメガ3とオメガ6
神経細胞の膜がやわらかいと、伝達物質を受容体が受けとりやすい。つまり、情報をスムーズにやりとりできる=頭がよい、ということになる。逆に膜が硬いと、伝達物質を受容体が受け取りにくいので、頭の回転が鈍くなる。

昔から頭のいいことを、頭がやわらかいと表現してきたが、これは単なる比喩でなく、神経細胞の膜がやわらかいほど柔軟性に富んだ脳になるのである。

神経細胞の膜のやわらかさは、摂取する脂肪の種類と量によって変わる。すなわち、膜は硬い飽和脂肪酸の摂取量が増えると硬くなり、やわらかい不飽和脂肪酸の割合が増えるとやわらかくなる。

やわらかい脂肪酸の代表がオメガ3とオメガ6で、どちらも必須脂肪酸である。オメガ3とオメガ6の両方があなたの食事に含まれていなければならない理由が、ここにある。