砂糖産業の過去のスキャンダルが明るみに!
最近、砂糖産業のスキャンダルが新しく公表された歴史文書で明らかになった。どういうことかというと、1960年代、砂糖産業は有力な科学者にカネを支払い、砂糖と心臓病とのつながりを否定し、その代わりに、飽和脂肪が心臓病の犯人であると宣伝していたというのだ。
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飽和脂肪が心臓病を引き起こすから、摂取を減らすように、という官民あげての大キャンペーンがアメリカでも日本でも繰り広げられた。あれはいったい何だったのか?
UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)の研究者が発見した砂糖産業の内部文書と2016年9月16日付のJAMA(Journal of American Medical Association、アメリカ医学会誌)の内科学によると(1)、現在、推薦されている食事を含め、栄養と心臓病の関係に関する50年にわたる研究が、主に砂糖産業によって形づくられてきた。
JAMA 論文の共著者であるUCSFのスタントン・グランツ教授は「彼らは砂糖についての議論を脱線させてきた」と語る。砂糖産業の内部文書によると、砂糖研究財団と呼ばれるグループ、今でいう「砂糖協会」が、ハーバード大学の科学者に現在の貨幣価値に換算して約5万ドル(500万円)を支払い、1967年の砂糖、脂肪、心臓病について1本のレビュー(総説)を書かせ、著名な医学誌に発表させたのである。
レビューを書くには、元となるいくつかの論文が選ばれる。このいくつかの論文がレビューの中身と結論を決定する。どの論文を選ぶかがポイントだ。論文を選び、それをレビューを執筆する科学者に提供したのが、砂糖グループだったから問題なのだ。しかも、このレビューは非常に評判の高いNEJM(ニューイングランド医学誌)に発表され、砂糖と心臓病のつながりを最小化するばかりか、飽和脂肪を心臓病の犯人の有力候補に仕立てあげた(2)。
では、砂糖産業はどうやって脂肪を悪者に仕立て上げたのか?
食品産業が50年近く前から栄養科学に影響力を及ぼしてきたことが発覚した。だが、その影響力は今も継続していることが最近の報告でも明らかに成っている。
2015年5月のNY(ニューヨーク)タイムズの記事で、世界で1番大きな砂糖飲料水製造会社のコカコーラ社が、砂糖飲料と肥満のつながりを否定する立場の研究者に数億円を提供したことが明らかになった(3)。6月、AP通信は、キャンディ製造会社は、キャンディを食べる子どもは食べない子どもに比べ、体重が減少すると主張する研究に資金を提供したことを報告した。
砂糖産業からカネをもらっていた科学者たち
ハーバード大学の研究者と共同作業をしていた砂糖産業の役員は、もはやこの世にいない。では、砂糖産業からカネをもらっていた科学者というのは誰なのか? そのひとりはマーク・ヘグステッド博士で、後にアメリカ農務省のトップに就いた。1977年、彼は連邦政府の食事ガイドラインのドラフト作成に協力した。もうひとりは、ハーバード大学の栄養学科の課長のフレドリック・ステア博士である。
JAMA論文による砂糖産業のスキャンダル暴露は衝撃的だった。これに対する声明文で砂糖協会は、1967年のレビューは医学誌が研究者に資金の出所を明示することを要求しなかった時代に発表されたものであると言い訳している。
NEJMは1984年まで研究資金の出所の開示を著者に求めなかった。声明文で砂糖協会は「産業は研究活動についてもっと透明であるべきだ」と抜け抜けいい、さらに、産業の提供する研究が科学的議論に置いて重要な役割を果たしてきたと強弁する。数十年にわたる研究で「砂糖は心臓病に重要な役割を果たさなかったと結論できる」とまで主張する始末だ。呆れるほかない。
「情報開示は重要である。なぜなら、砂糖と飽和脂肪の相対的な有害性の議論は今も続いている」とグランツ教授は述べる。数十年にわたり健康関係の官僚は、脂肪の摂取を減らすよう国民を指導してきた。こうして多くの人々は、低脂肪食・高砂糖食を摂取してきた。ある専門家は、これが肥満爆発の火に油を注いだと指摘する。
グランツは、こういう。「砂糖業界のやったことは非常に頭がいい。なぜなら、レビューは、とりわけ非常に評判のいい医学誌に発表すれば科学的議論を形づくる傾向があるからだ」
ヘグステッド博士は、自分の研究結果を政府の食事指導に反映させた。脂肪が心臓病の元凶であり、砂糖は「空のカロリー」であって、単に虫歯をもたらすと強調した。最近、アメリカ心臓病協会、WHO(世界保健機関)その他の健康機関が砂糖の過剰摂取によって心臓病のリスクが高まることを警告し始めたが、今日でも飽和脂肪への警告は政府の食事ガイドラインの基礎として残ったままである。
ニューヨーク大学の栄養学科のマリオン・ネッスル教授は、この報告書は、砂糖産業が砂糖が心臓病の主なリスクファクターであることから注意をそらすための研究を開始していたことを示す動かぬ証拠である、と述べる。「とてもまずいことです。ここまで明白な悪事の例を見ることはまずありません」と続ける。
ハーバード大学の栄養学科のヘッドであるウオルター・ウィレット教授は、学術における利益相反についてのルールが1960年代から激変したが、産業報告書は「なぜ、研究は産業界に頼るのではなく、公的資金で運営されねばならないかを私たちに思い知らせている」と述べる。
ウィレット教授は、当時の研究者は砂糖と脂肪の想定的なリスクを評価するデータが不十分だったと述べる。「もし私たちが手にするデータがあれば、精製された糖質、とりわけ砂糖によって甘くなった飲料水は心臓病のリスクファクターであることは明らかである。だが、ある種の脂肪もまた非常に重要だ」という。
JAMA内科学の論文は、UCSFのポスドク、クリスチン・カーン博士が中心となってハーバード大学、イリノイ大学、その他の大学に保管されていた数千ページに及ぶ文書を元にして書いたものである>(1)。文書は次のことを示している。1964年、砂糖産業の最上位の役員のジョン・ヒクソン氏が他の企業の役員と、彼らの研究と情報と法律を混ぜ合わせたプログラムを通して大衆の意見をシフトさせる計画を議論した、と。
当時、砂糖の多い食事と心臓病の関係が、研究によって指摘され始めていた。同じ時期に、著名な生理学者のアンゼル・キース博士を含めたグループは、心臓病の最大のリスクファクターは飽和脂肪とコレステロールであると主張していた。ヒクソン氏は、企業がスポンサーする研究によって砂糖についての警告的な発見に対抗しようと提案した。「これによって私たちは敵を論破するデータを公表できる」と彼は書いている。