これまで、目は無菌状態にあると思われてきたが、そうではないことが判明した。驚くことに、目にはバクテリアがウヨウヨいるだけでなく、このバクテリアが角膜を感染症から守っているという。

2017年7月11日、NEI(米国立眼科研究所)のレイチェル・カスピ博士のグループが、かつて微生物が住まないと考えられてきた目がバクテリア・コミュニティの住処(すみか)となり、目を病気から守っているという画期的な研究結果を発表した(1)。

あなたの目はバクテリアでいっぱいかもしれない。

Credit: Rachel Caspi and Anthony St. Leger. (NEI Press Release)

著者でNEIの免疫部門長カスピ博士は、こういう。「(目は無菌状態かどうかの)論争が長く続いてきた。だが、私たちは長い間の疑問に決着をつけた」

空気中にはたくさんのバクテリアが浮かんでいる。当然、目に入ってくる。それでも長い間、目は無菌状態にあると考えられてきたのは、空気中から目の表面に着地したバクテリアは、細胞壁を分解するリゾチーム、バクテリアを殺すペプチドなどによって非常に効率よく破壊されるからである。
では、どうやって目にバクテリアが住んでいることを発見したのか?

カスピ博士のグループのひとり、アンソニー・レガー博士が綿棒でマウスのまぶたからサンプルを採取し、培養した。するとコリネバクテリウム・マスティタイデス(C.mast)やブドウ球菌を含むさまざまなバクテリアが育った。これらのバクテリアがマウスのまぶたに存在するということだ。なお、ブドウ球菌は、皮膚の表面でごく普通に見かけるバクテリアである。

レガー博士が、C.mastを結膜から採取した免疫細胞といっしょに培養したところ、IL-17(インターロイキン17)が作られた。IL-17はタンパク質で、好中球を結膜に集め、涙液中に殺菌タンパク質を放出する。要するにIL-17は、ヒトや動物を病気から守るのに必須のシグナルを出すのである。さらに研究を進めると、IL-17は粘膜組織でよく見られる免疫細胞のγδT細胞(ガンマデルタT細胞)によって作られていた(2)。

なぜ、C.mastは目の免疫系によって攻撃されずに、生きていけるのか? これは現在研究中である。
C.mastはマウスの免疫応答にプラスに働いているのか?

この問いに答えるために、次の実験をデザインした。1つのグループは対照群で、C.mastに感染しているマウスグループ。もうひとつのグループは抗生物質を投与してC.mastと他のバクテリアを殺しておいたマウスグループ。次に、イーストの一種であるガンジダを両方のグループに感染させた。

抗生物質を投与されたマウスは、結膜の免疫応答が低下し、ガンジダを取り除くことができず、目に感染が起こった。一方、対照群のマウスはガンジダを撃退した。こうしてC.mastは免疫応答を引き起こし、目で病原体が増殖するのを妨げることで、病気を防いでいることが証明された。大発見である。

大発見のきっかけは?
この大発見のきっかけは、たまたまレガー博士があることを観察したことによる。彼は、NIH(米国立衛生研究所)の動物施設のマウスはC.mastに感染していたが、ジャクソンラボや他の商業施設のマウスが感染していないことに気づいた。こんな疑問が生じた。C.mastは目の常在菌なのか、それとも他の環境から一時的に目に感染したバクテリアなのか?

そこで、C.mastに感染していないマウスにバクテリアを接種し、数週間後にバクテリアがマウスの目で増殖するかどうかを観察した。さらに、C.mastがマウスから別のマウスに感染するかどうか、も観察した。

まず、ジャクソンラボのマウスにC.mastを接種したところ、結膜のγδT細胞からIL-17が放出された。対照的にジャクソンラボのマウスに他のバクテリを接種したが、免疫応答を引き起こすことなく、消えた。
レガー博士は、こういう。「他のバクテリアが目でコロニーを作ることができないのに、C.mastが生き残ることができる理由はわからない」

興味深いことに、C.mastは8週間たってもカゴの中でマウスから別のマウスに感染しなかったが、母マウスから子マウスに感染した。すなわち、C.mastは通常の接触では感染しないが、母と子といった濃厚な接触によって感染することがわかる。
ところで、C.mastは目に有益な免疫応答を引き起こすが、病気の原因にもなることがあるはずだ。

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