分子栄養療法のパイオニア1:ライナス・ポーリング博士
分子栄養療法のパイオニアたちを紹介する。
金儲けを完全に度外視し、科学の発展と人類の福祉のために生きた天才がいる。その代表が、ライナス・ポーリング博士だ。すでに彼は1954年度のノーベル化学賞と1962年度ノーベル平和賞を受賞していた。
その彼が60代になったとき、人体の生化学物質が本来の機能を発揮できないことが原因で発生する病気に焦点を当て、これを治療する分子整合医学(オルソ・モレキュラー・メディスン)を提唱した(1)。
「オルソ」は「正しい」、「モレキュラー」は「分子」、「メディスン」は「医学」という意味である。だから、「オルソ・モレキュラー・メディスン」を「分子整合医学」と呼んでいる。「分子栄養療法」と呼んだほうがわかりやすい。
すなわち、分子整合医学とは、その人に適切な生化学にもとづき、人体の細胞にとって最適な生態環境をビタミン、ミネラル、アミノ酸、必須脂肪酸、酵素、ホルモンなど人体にもとから存在する天然の物質を利用して回復することをいう。
また、彼は「心は、脳の構造そのものの現れである」と明言し、脳内物質のインバランスを分子レベルで正すことによって治療する新しい道を開拓した。これを心の病の治療に応用したのが「分子整合精神治療」である。
伝説の科学者ライナス・ポーリング
1994 年8 月 19 日、ポーリング博士は 93 歳の生涯を終えた。研究業績があまりに大きかったので、科学の世界で生きるだれでもがその名を知っている。また、一般の人々にも、2度にわたるノーベル賞(1954 年の化学賞と 1962 年の平和賞)やビタミン C を紹介した人として知られている。
ポーリング博士の業績についてすこし触れておこう。同博士は、化学と生物学における重要な概念を次々と発表した。それらをいくつか並べてみる。
原子が電子を自分の方に引き寄せる程度を表現した電気陰性度、どのようにして原子と原子が結びつくのかを説明した軌道の混成、どのような化学反応が起こるかを予測するのに最も役立つ手段としての共鳴構造、タンパク質がどのようにして三次元構造を維持しているのか(タンパク質構造のα-ヘリックスを提唱したのもポーリング博士である)、抗体や酵素がある特定の物質を認識するしくみ、病気の分子レベルでの理解など。
これらの業績のどれひとつを取り上げても、ひとりの非常にすぐれた科学者が一生をかけて達成できる偉業に匹敵する。
オレゴン大学ユージン校のトム・ヘーガー氏が、ポーリング博士に関するエピソードを紹介している。1960 年代のある日、カルテックの物理学者リチャード・ファインマン博士(1965 年のノーベル物理学賞受賞者)が、ロサンゼルスからバスでラスベガスに向かっている途中のこと。