分子生物学と細胞代謝がつながりはじめた　

AKTタンパク質は、細胞内で作られたタンパク質をどこに移動させるかを示すものである。だが、AKTが変異すると、細胞はブドウ糖をどんどん食べるようになる。これがトンプソンによるAKTの役割の再定義である。

そのころ、ペンシルベニア大学アブラハムがんセンターの所長、チ・バン・ダングは、これまで広く研究されてきた遺伝子が、どのようにがんの代謝に影響を及ぼすかを説明していた。

1997年、彼は、分子生物学を細胞代謝に結びつける最初の科学者のひとりとなった。彼は、細胞増殖を担うMYC（ミック）という制御酵素がワーブルグ効果のスイッチをオンにする酵素を標的とすることを証明したのである。

Dr. Chi Dang

これは、ダングの回想である。他の研究者は、細胞の生存に必須の酵素であるハウスキーピング酵素を重要と考えることに懐疑的であった。だが、彼は、がん細胞が食べることを止めないという重要な事実に気づき、ハウスキーピング酵素に興味を持ち続けた、と。

がん細胞は正常細胞と異なる。がん細胞は、食べ物が得られないときに資源を守るための内部フィードバックが機能しない。要するに、がん細胞は栄養素の依存症になっている。そして栄養素を十分に消費できないとき、彼らは死に始める。

栄養素への依存によって、細胞ががんに向かうとき、最初に現れるのが代謝経路の変化であることが、これで説明できる。がんの増殖に必要な栄養素が得られないとき、代謝経路の変化が起こるのだ。