抗生物質のチャンピオン、ペニシリンは1928年に偶然発見され、今でも世界で最も広く使われている薬である。抗生物質は症状を改善し、回復を早め、バクテリアによる破壊的な感染から人の命を守る。

大成功である。抗生物質は「奇跡の薬」としてもてはやされた。だが、タダで、というわけにはいかない。抗生物質を過剰に使用することによって、奇跡の薬が効かない「スーパーバグ」という非常に恐ろしいバクテリアがわが物顔に振る舞う新世界ができてしまったからだ。

私たちは、その新世界に住んでいる。抗生物質にも裏と表がある。抗生物質について、あなた自身を守るために知っておくべきことを解説しよう。

1. 抗生物質とは何か?
そもそも抗生物質とは、バクテリアの感染によって起こる感染症と戦う薬のことである。抗生物質はバクテリアを殺すものもあれば、バクテリアの増殖を抑えるものもある。

バクテリアの特定のグループを標的とするのが「狭域抗生物質」で、その代表がエリスロマイシンである。狭域抗生物質が十分な効果を発揮しないケース、あるいは医師がどの抗生物質が最適かを決めるまで待つと危険なケースでは広域抗生物質を使うことになる。

広域抗生物質は広範囲のバクテリアを退治するもので、その代表はアモキシリン、ストレプトマイシン、テトラサイクリンなど。 

2014年、アメリカでは2億6,200万件の抗生物質が病院の外来で処方された。さらに数百万件が院内で処方されている。こうして抗生物質は最も一般的な処方となっている。

2. 抗生物質にどんな問題があるのか?
約70年前から、ペニシリンが広く使われるようになった。この薬は「魔法の弾丸」と呼ばれた。かつて死を招く病気とされていたものを退治し、手術をより安全なものにしたからだ。すぐに科学者は、多くの抗生物質を発見した。これらの薬によって感染症による死は劇的に減少した。だが、話はここで終わらない。

この薬はすぐに不適切に使用されるようになった。薬の乱用である。たとえば、抗生物質の効かないカゼなどのウイルス性の感染、ノドのハレなど、放っておけば自然に治る軽度のバクテリア感染にも使用してきた。

バクテリアは私たちヒトと同じ生き物である。どちらも必死に生きようとする。そういうわけで、抗生物質に耐えて生きる耐性菌が誕生した。耐性菌が誕生しただけではない。どんどん広まった。だが、ここで立ち止まることなく、医師は数十年にわたり抗生物質の処方を続けて今にいたる。

毎年、抗生物質は世界で数百万人を救ってきたが、もはや抗生物質が効かなくなった。そのせいで、抗生物質によって、毎年、少なくとも、2万3,000人が死に、200万人が病気になっている。

3. 今、抗生物質はどのように乱用されているのか?
2016年、CDC(米国疾病予防センター)の研究者がJAMA(アメリカ医学会誌)に掲載した論文によると、医師によって処方される抗生物質の約30%は不要であるという。この対策をWHO(世界保健機関)は各国に対策を求めている。これに応じて日本政府は2018年5月5日、医師が処方する抗生物質を2020年までに33%減らす目標を設定した。

抗生物質の使用量だけでなく、使い方にも問題がある。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録はお済みですか? 会員について