“膜の性質“がはたらきを決める

「頭がよくなる」「ウツ知らず」「血液をサラサラにして血栓予防」「コレステロール値を下げてくれる」・・・・・。「DHAやEPA」のうたい文句はどれも、飽食でストレスの多い現代人にとって魅力的だ。DHAはドコサヘキサエン酸、EPAはエイコサペンタエン酸という、舌を噛みそうな長い名前の脂肪酸の略称だ。
どちらもマグロ、サバ、ブリ、サンマ、イワシなど背の青い魚に多く含まれるため、「魚油」と総称されている。

それから、DHA とEPAは「オメガ3」とも呼ばれる。これは、メチル基の末端から数えて最初の二重結合が「3つめ」にあるためだ。サプリに関しては、魚油=オメガ3なのである。

人体のすべての細胞は膜で包まれている。膜は脂質でつくられ、脂質でもっとも重要な成分がオメガ3なのである。そのうえ、脳の実質である神経細胞の膜はほかの細胞よりはるかに多くのオメガ3を含んでいる。


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脳のはたらきというと、セロトニンやノルアドレナリンなどの伝達物質ばかりが注目されているが、膜の重要性を忘れてはならない。いくら伝達物質が豊富にあっても、それだけでシグナルは神経細胞から神経細胞へと伝わらないのだ。

伝達物質は、受容体に受け取ってもらうことではじめて効果を発揮する。受容体が伝達物質を受け取れるかどうかが重要だが、このカギを握っているのが、形や柔軟性など”膜の性質”なのである。膜の性質は、食事として摂取され、膜の構成成分となった脂肪酸の種類で決まる。

オメガ3の抗うつ効果
似て非なるものはライバルになりやすい。オメガ3のライバルが、それとよく似た「オメガ6」だ。
オメガ6は、メチル基の末端から数えて最初の二重結合が「6つめ」にある。

オメガ3とオメガ6は二重結合の位置こそ異なるものの、どちらも体内でつくることのできない必須脂肪酸であるから、食物から摂取しなければない。オメガ6の代表はリノール酸で、紅花油、ひまわり油、コーンオイルに多く含まれている。

だが、オメガ6の欠乏や不足を心配する必要はない。むしろ現代ではふつうに食べていると、オメガ6の過剰摂取になることが心配だ。一方、オメガ3はふつうに食べていると不足しがちなのである。

オメガ3の不足によって、困ることが2点ある。1点めは、オメガ6がオメガ3と競争し、神経細胞の膜の成分としてオメガ3に代わってオメガ6が入ること。こうして膜の機能が低下し、脳のはたらきが悪くなる。気分が落ち込み、やる気が出ない。これをうつという。

それなら、オメガ3を増やせば、うつは改善するのか。

その通りである。1999 年、ハーバード大医学部のアンドルー・ストール教授がこんな報告をした(1)。

まず、躁うつ病者 30 人を2つのグループに分け、1つのグループの 14 人には毎日 9.6 グラムのオメガ3(魚油)、対照群としてもう1つのグループの 16 人には毎日同量のオリーブ油(偽薬)を4ヶ月間服用してもらった。

この結果、オメガ3を服用したグループでは14 人のうち 9 人にうつ症状の著しい改善が見られたが、対照群であるオリーブ油のグループでは 16 人のうち改善したのはわずか3人だった。

魚を食べないアメリカ人にアルツハイマー病が多発

また、オメガ6は炎症を発生させ、オメガ3は逆に炎症を抑える。オメガ3が不足するとオメガ6が優位となるために、炎症が慢性化する。これがオメガ3不足で困ることの2点めだ。慢性炎症によって、アルツハイマー病、心臓病、がんが発生しやすくなるのだ。

脳にとって理想とされるオメガ6とオメガ3の比率(ωー6/ωー3)は1対1である。これは、縄文人が食事から摂っていた(ωー6/ωー3)の比率でもある。ところが現代のわが国ではこの比率が4:1、これはギリギリで許容範囲内にある。一方、魚をほとんど食べないアメリカ人では、この比率が 16:1 となっている。オメガ6側に圧倒的に片寄っている。

2017年、アメリカでは 530万人のアルツハイマー病患者がいるが、なお増えつづけている(2)。抗炎症薬アスピリンにアルツハイマー病への予防効果が認められているだけでなく、すべての抗炎症薬が、アルツハイマー病の発生リスクを軽減することから、炎症がアルツハイマー病の発生に深くかかわっていることは明らかだ(2)。

このため、オメガ6の過剰摂取がアメリカ人の脳機能が低下している原因のひとつと考えられている。

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